昨年3月ベルギーから譲り受けたこのgt4は同年6月に入港。まずは板金工場で前後の欧州のナンバーの穴の補修を行います。


フロントラバーバンパーにあいた穴をパテで埋め、


補修した後塗装します。

リヤは左右のライトを取り外し、ナンバープレートの穴と本来ついていない左の跳ね馬のエンブレムをとり、その穴をうめ、塗装をします。

ボンネットも工場出荷時にはついていなかったFerrari のエンブレムを取り外し、それを固定してあった穴もうめて、トランクパネルを塗ります。

購入時についていたこのミラーを当時のVitaloni のミラーに交換しました。

これだけでかなり印象が70年代ぽくなってきます。

新たに取り付けたこのミラーはこんなことがあるだろうと予測して以前に購入してあったVitaloniの打刻のある当時のオリジナル。


もともとついていた黒のワイパーブレードもオリジナルのダブルスポークのものに交換。

こんな細かいところを当時のものにするだけでクルマの雰囲気がぐっとよくなります。

助手席のリヤフェンダーの手前の下にはってあるベルトーネのエンブレムも新品に交換します。
このパーツも今では入手が困難になりました。

板金作業中にシートをはずし、サイドサポートのビニールレザーが切れている部分の修理をします。
中央の座面の布の生地の補修は不可能ですが、ビニール部分はこれくらいの傷は修復が可能なのです。
下は修復後の写真。業者によっては新しいビニールレザーでこの部分をすべて張り替えてしまうところもありますが、明らかに左右の生地の質感がことなってしまうのがよくみるとわかるので私は修復補修の方法をとっています。しわの感じや手触りが微妙にことなっているのが嫌だからです。できるだけオリジナルの部分を残し、当時のままの状態を残したいのです。シートの細かいしわをそのまま残せるレストアをします。シートは当時のままなので座面に膝をたてたり、手で体重をかけるのは厳禁です。このシートでそれをしてしまうとビニールレザーと中央のスエードの生地を縫い合わせている糸が切れてしまうことがあるからです。座る時もドンとすわらず、まず横から乗って、手をついて腰を浮かせて中央をむいて座るという習慣をつけています。
補修したところだけはしわがなくなっていますが、他の部分はオリジナルのままの質感なのでよーく見てもなかなか気が付かないほどの仕上がりです。
ボディの塗装の作業が終了してからは機関系および足回りの点検に入ります。
仮ナンバーをつけて試乗してまず気になったのはショックの不良。というか経年劣化でショック本来の機能がなくなっており、スカスカの状態でした。
幸いまだKONIは新品を供給してくれています。フロントとリヤとはそれぞれ異なるショックを使用しているのでそれぞれ
2本ずつ輸入します。



新品のショックに新しいブッシュを圧入します。前後4本のショックを交換し、スプリングも錆を落とし再塗装をして組み込みます。
次はブレーキです。若干引きずりがあるため、ブレーキキャリパーを

ATEのシールキットを使用してオーバーホールを実施しました。

真ん中に見えるネジでピストンを押し出しブレーキパッドをローターに押し当てる仕組み


分解すると中のシールリングが粉々になっています。このゴムのパッキンが傷むとここからオイルが漏れてきますので交換しなければなりません。

パッキンも劣化が見てわかります。

ピストンもシーリングが傷んでいるため水が浸入して錆ているのがわかります。

右が取り外したピストン。左が磨いた後。これだけで動きが格段によくなるのは誰がみても明白です。
汚れたピストンもきれいにして構成部品もクリーニングしてから組込みます。ブレーキホースも新しいものに4本とも交換します。あまりオーナーは乗っておらず、たまに乗ってもちゃんと機能しているので新車時のホースを使用しているクルマが今でもあります。私の308も76年製のものがついていました。さすがに何かあったら危険なので古いものや硬くなっているものは点検時に交換しています。


ブレーキリザーバータンクは内部はこんな状態でした。
汚れを取り除き、清掃後、

ブレーキフルイドをいれ、エア抜きをします。

フェラーリらしく運転するにはブレーキ機能は重要です。これで安心してとばせます。
次はキャブレター回り。エアクリーナーボックスを外し、

エアフィルターの汚れがひどいため新品に交換。

ファンネルの取り付けナットが一つだけ普通のナットがついていたため正規の緩み止め機能がついたものに交換。

ガソリンタンクからポンプ、

ポンプからキャブレター、キャブレター回り、

左右のタンクをつなぐパラレルホースなどのガソリンホースを一式交換します。


上は給油口からガソリンタンクまでをつなぐホース。まだ漏れてはいませんが、拡大すると表面に無数のひび割れが確認できます。以前満タンにした時にだけガソリンが漏れるgt4があり、それ以来必ず点検してこのような状態のものはすべて新しいホースに交換しています。

これで10年以上は安心です。

これは助手席後ろのガソリンタンクと運転席後ろのタンクをつなぐパラレルホース。劣化のためふくらんでいます。

これも新しいものに交換。上は交換後の写真。


ブローバイホース及びバンドも交換。エンジンルームの左上のエアクリーナーの下のホースで、反対側にも同じものがあります。

エンジンブロックからフロントヒーターにつながるヒーターホースが付け根が劣化のため膨らんでいたためこれも交換。

ホースをとりはずし、アルミパイプの劣化を確認し、


まだ使用可能のため、清掃してそのまま使用することにして、ホースのみ交換。

これは取り外したホース内側の写真。
交換後の新しいホースは膨らみがないのがはっきりわかります。

フロントのヒーターセクションまではガソリンタンクを外して交換する必要があるため、
タンクを外します。内壁がリベットでとまっているので大変な作業になります。メカニックは簡単に交換できるような作りにしてほしかったと思っているはずです。
これはウォーターポンプ上のサーモスタットの入ったリザーブタンクからのホースをつなぐアルミパイプ。
完璧に腐食しています。この腐蝕を防ぐ意味でも錆が進行しない不凍液(アンチフリーズ)は必ず入れる必要があります。アルミは水に弱いので50年たてば仕方ないのかもしれませんね。
下は上のアルミホースにつながれたリザーブタンクからのウォーターホースです。
このふくらみを見ただけでホースの交換時期なのはすぐにわかります。
ホースを抜いてみると腐蝕がはげしく、いつ折れてしまってもおかしくない状態でした。
触っただけでぼろぼろ崩れてきたので取り外し、新たにピッチを切って新しいアルミ管をつけます。
これで新車時の時の姿に復活しました。
ここにつながるホースとリザーバータンクも新品に交換しました。
タンクは水漏れこそしていませんでしたが小さな穴があいて腐蝕していました。カニの口から出てくる泡のように水を吹いていたと思われます。
ウォーターポンプからは水漏れした跡があったためガスケットを交換、プーリーもとりはずし綺麗にして再塗装。上の太い口の中に入ってるサーモスタットも新品に交換しました。ぐっと新しい感じになります。もちろんタイミングベルト、ALTベルト、ACベルトも交換。上の左の青いリングは新品のタイミングベルトのテンショナーベアリング。


クラッチリンケージ脱着清掃点検、レリーズベアリング交換、Oリング交換、オイルシール交換、

フライホィール表面があれているため面研を外注にたのんで実施しました。

上は面研後の写真です。

クラッチディスク、プレッシャープレートを交換後は見違えました。

今回は交換後、クラッチを踏むたびにギリっという音がでるため、クラッチワイヤーも交換しました。予想どうりワイヤがささくれだっていたせいで異音が出ていて、交換後はその音も消えました。
もう一つ必ず点検する箇所がドライブシャフトブーツの破れ、今回もブーツにヒビが入っていて、そこから中のグリスが少しエンジンに飛び散っていたため交換します。ここはもう消耗品と思っています。このシャフトがリヤタイヤを駆動して200㎞もの速度をだすわけですから10年も走っていればたとえ走行距離が少なくともヒビは入ってくるはずです。

脱着し、清掃した後、ブーツキット交換。シャフトの黒い部分の錆びをとって再塗装します。

下は組み上げたドライブシャフト。

マスキングをしてセンターのシャフトも黒く塗ります。見えないところですが
下から覗きこむと綺麗なドライブシャフトがみえるのはオーナーにとっては嬉しいはずです。

左右のデフシールも交換します。以前デフシールからオイルが漏れていなかったのでそのままドライブシャフトをつけたことがあり、1か月後にそのシールからオイル漏れしたことがあったため、

ドライブシャフトを外した時には必ずオイルシールも交換することにしています。


これは交換前の写真、すでにオイルが滲んでいるのが確認できます。漏れたオイルはブレーキクリーナーできれいに清掃してから交換します。


エンジンオイル、ミッションオイル交換。ドレインは磁石になっていて細かい金属片がつくようになっています。
必ず油脂類は交換しますが、

今回エンジンオイルのドレインプラグに銅ワッシャーが入っていませんでした。幸い漏れは確認できませんでしたが、海外のメカもこんなボンミスするのですね。


コードが新しくなるとがぜんエンジンルームが華やかになります。

プラグの頭に差し込むサプレッサーが一つ欠けていたので、これも交換。電気がリークしてこの1本だけ発火の力が弱くなり、エンジン不調の原因となる可能性があるので割れているものは必ず交換します。同様にデストリビューターキャップもクラックのあるものは必ず交換します。

このクルマもキャップにクラックが入っていたため交換しました、右の真ん中より少し上にヒビがはいっているのがわかりますか?

これは新品のデストリビューターキャップ。まだ新しいパーツが入手できるのは嬉しい限りです。

これが新しいデスキャップに新しいプラグコードを取り付けたところ。ちなみに青いコードのついているものがコンデンサー。これが壊れるとエンジン不調になったっり、最悪のケースは止まってしまうこともあります。納車前にはこれも必ず日本製のものに交換します。

エンジンが揺れないようにトランク側とエンジンをつなぐエンジンマウントもゴムにヒビなどが入っているものはブッシュを入れ替えます。

今回はついていたエアコンが効かないためコンプレッサーを交換。

さらにゴミをとるレシーバ―タンクも新しいものに交換しました。

このリザーバータンクは社外品ですが、交換した効果は素晴らしく、室内を冷やす能力はかなりアップしました。新しいコンプレッサーのせいなのか、リザーバータンクなのか、今度私のクルマのリザーバーを交換してみようと思います。
納車の際、オーナーがこんなにエアコンが効くとは思っていませんでした!と驚くほどの冷却度です。

エアコンのベルトのテンショナーベアリングも交換。

清掃して、プーリーは黒く塗装をしてから


ベアリングをつけ、エンジンに組み付けます。

ホースやバンドを交換してクリーニング後のエンジンは実に美しいものです。
しかし私がもっとも好きなレストアの場所はスタビライザーのブッシュの交換です。

上はスタビからとりはずしたダストで汚れたブッシュ類。

メタルブッシュをとりはずしてから色を塗り、下の新しいブッシュを組み込みます。

シルバーのステイから古いブッシュを取り出し、新しいものを圧入します。シルバーの部分は再塗装します。そして組付けたものが下の写真です。リヤを覗き込むとこの光ったステイとオレンジのブッシュが見えます。各段にコーナーの安定感もますばかりか、なんともいえないメカニカルな美しさがあります。
上はリアのスタビで下はフロントです。交換したばかりのドライブシャフトブーツも美しく、自分のクルマならばうれしくなる光景です。



交換前とは雰囲気がかなり異なります。

フロントのハブベアリングのガタも修正し、グリスアップ。

これはトランクを固定するナット。本来3つあるのですが1つが欠損していたため、

新たに取付けました。

その後右側と同じように黒く塗装します。写真ではまだ乾燥していないので光っていますが、10分もすればパネルと同色になり違和感はなくなります。

40年以上前のクルマなのでほとんどのクルマのペダルのラバーはこのような状態です。弊社ではこのまま納めることはなく納車前には必ず傷んだぺダルラバーを新しいものに交換しています。こんな小さな見えないところのパーツの交換も大切にしたいと思います。もし私がオーナーなら数千円ならばすぐにあたらしいものに変えて欲しいと思うからです。


上の写真は今回交換したベルトやウォーターホース、ベアリングやクラッチ、オイルフィルター、オイルシールやブッシュ、ガスケットなどの一部です。この他にもプラグコード、プラグ、コンデンサー、サーモスタット、アルミパイプ、ブレーキホース、デスビキャップ、ポイント、デスビオイルシール、タイヤなど数多くのパーツを交換しています。

弊社の輸入したクルマは一台、一台、数か月、長いものでは1年ほどかけて整備をしてからお客様のガレージに納まります。
今も昨年ご契約いただいた208gt4は塗装作業中で今年ご契約いただいたもう1台のgt4は整備中です。出来るだけトラブルのないように整備をしていますが、50年前のクルマなので思わぬ故障はあります。308やgt4はそれでも乗っていたいと思える魅力あふれる車なのです。私にとってのこれらのクルマは美術品のような美しさと、今のっても十分速く、エキサイティングなスポーツカーと呼べるクルマです。願わくはお客さんにとってこのクルマが自分のガレージにあるだけで思わずくちもとが緩んでしまうような愛すべき1台になってほしいと願い、納車させていただいています。