キャブレターとインジェクションモデル、どちらを選ぶか
キーを回せば免許を取得したばかりの人でもかけることができます。
モダンフェラーリにいたってはブレーキを踏んでSTARTボタンを押すだけで
ブオンと始動します。
一度エンジンに火が入ったら2000回転にアクセルの開度をキープしなければなりません。
エンジンが温まっているときに再始動する前にアクセルを床まで踏み込んでしまえば、プラグはびしょびしょになり、いったんプラグを外して、掃除しなければエンジンはかからなっくなってしまいます。
発進時はキャブ車はアクセルを不用意に開けてしまうとガソリンが燃焼室に急激に入り、せき込むような症状がでるので注意が必要です。
インジェクションは噴射量を調整してくれているのでアクセルをゆっくりと開ける必要はありません。
その印象は一変します。
加速感は発進時はQVがまさるが、中高速域ではキャブの車のレスポンスは圧倒的にいいのです。
さらにキャブの308には、独特の吸気音や乾いた排気音、それにフライホィールのキーンといういわゆるフェラーリサウンドがコックピットを満たします。
355の音も素晴らしいですが、全く異なるサウンドです。
355のF1のようなサウンドとは違う、まさに音楽と呼ぶにふさわしい音色です。
それに比べインジェクションはシャーというベアリングの音や太い排気音となる。
そのレスポンスの良さは驚くことに355よりもシャープです。
355の発進時の少しもたつくような感じもありません。
乗り比べるとインジェクションの加速感はどうしても緩慢に思えてしまいます。
キャブのフラップとアクセルぺダルが直結していて、ほんの少しの右足の踏み加減でガソリンが燃焼室に一気に落ちてエンジンの回転が跳ね上がる感じこそが
キャブの308や208gt4の魅力です。
どちらにも共通しているのが足回りやフレーム、そしてハンドリングの素晴らしさです。
ミッドシップ独特な、そしてスポーツカーならではのお応答性の良さがあります。
308のステアリングは328のようなステアリングが上下に動いてしまうような
ガタガタした感覚はなく、路面状況を的確にドライバーにつたえてくれます。
シートの座面の高さは圧倒的に308の方が低く、シートの肉厚も薄い。
ドライビングポジションはキャブ車の方が179㎝の私にはあっています。
ルーフのヘッドクリアランスもキャブの308の方が328などにくらべ格段に
スペースがあります。
特に328は右足のすねがエアコンの吹き出し口にあたり、長時間のドライブでは気になります。
エクステリアとインテリアは好みの問題。
QVとキャブレターの308はクラシカルなイメージでメッキのサイドブレーキ、
シフトノブ、メーターのリング、メッキのフレームのヒーターレバーや
丸いトグルスイッチなどまるで美術品のような美しさがあります。
308やQVから比べると明らかにコストが削られていることがはっきりわかります。
328のようにドア本体に取り付けると美しいラインがくずれてしまうことを
デザイナーが嫌ったからに他ならないのです。
フェラーリ社のコストダウンの至上命令のためにデザイナーは本来の美しさを
犠牲にしてもコストのかからない設計に変更されていくのが2台を比べると
よくわかります。
クラシックフェラーリの魅力の一つはこの美しさにこだわったボディと内装
の作りにあります。
時代とともにそのデザインは変わり、
308と355を見比べるとパネルが細分化され左右フェンダー、ボンネット、バンパー、ヘッドライトとその下のバーとがはめ込まれて作られる、まるでパズルのようです。
オートメーション化され作られたモダンフェラーリもその流れは同じで308のような美しいラインやメッキのコントラストの美しさはありません。
ちなみにフェラーリが初めて溶接や塗装の機械を採用し、オートメーション化して作られたクルマは348です。
しかしシートのステッチやセンターコンソールのスイッチ類などどれをとってもそこにはめ込んだだけのようなモダンフェラーリとは違った、職人の、そしてデザイナーの美しさへのこだわりをクラシックなキャブ車には感じます。
ちなみにスイッチ類やエアコンのダクト、センターコンソールなどが経年劣化でベタベタし始めるのは348からで、それは今のモダンフェラーリでも悲しきかな改善されていません。
そのため何年かするとボディのねじれでリヤフェンダーとルーフからつながるピラーの接合部に亀裂が入ります。
そのようなことはありません。
コストダウンによるデザインの変更のしわよせはこんなところにもあらわれてきます。
リヤのライトやバックパネル、バンパーなどを308と見比べるとチープな感じは
否めません。
355と比べると308のパネルの美しい形状がよくわかります。
ライト回りの楕円にへこまされたデザインは秀逸です。
さらに横から見るとライト下のラインで内側に傾斜したパネルがバンパー下のパネルに続くラインと同じ角度でつながるのがわかります。この繊細な美しさをみてしまうと当時あれほど魅了された355でさえ張りぼてなチープな車にみえてしまうの
です。
GTBやgt4はフィオラバンテ氏やベルトーネがコストを気にせず、安全のための規制の締め付けもなく、自由に車を作れたよい時代の作品なのです。
フェラーリは美しくそして速いクルマでなければならないというエンツオの思想をもっとも受け継いだ車こそ当時の車だといいうことが見ればみるほど、乗れば乗るほどわかります。
キャブのドライビングの楽しさは私が百の賛辞をのべるより、一度調子のいい車におのりいただくのが1番です。
先日、208gt4に助手席にお乗りになられた方からいただいたメールをご紹介します。
まだ1週間も経過しておりませんが、今思い返してもまさに夢のような経験でした。
たしか10月頃のブログでも私のように試乗初体験の方のインプレッションの記事をあげておられましたが、まさに同感といいますか、208gt4はまさに本物のスポーツカーだと心底感じた次第です。
心酔という言いかたが正しいでしょうか。
無論、蓮実社長のドライビング技術によるところが大きいのではありますが、
本質的な意味でこの車の持つポテンシャルを垣間見ることが出来たのかなという
印象です。
現場でも会話にださせていただきましたが、速度域のちがい、サスの有無など根源的な違いは置いておくとして、カートと非常に近い感触を受けました。
ステアリングのダイレクト感とコーナリングでのアクセル操作で鼻先がククッと入り込む感触とエンジンのリニアな反応。
もちろん本物の感じは知る由もない身ですが、70年代のレーシングカーってこういった感じだったのかなあとつくづく思います。
今思い返してもあのコーナリングの感覚の緊張感とレーシング感は
スポーツカーそのものでした。
加えてあのキーンというフライホィールの音や街中で建物に映る鋭利な刃物のような体躯の様を見て、あれでニヤニヤしない男(否、クルマ好き)はいないのではないかと思います。
もっと形とブランドありきの、優雅な乗り味に近い高級よりのイメージでおりましたが、まるで全く異なるベクトルのクルマであることに圧倒され、正直大袈裟ですが涙が出そうでした。
まったくもって手が出しやすい価格でなくなってしまったのが悔やまれて仕方ないですが、本当に日常使いもしやに入れられるスポーツカーとして極致な選択肢かと考えます。
このメールをいただいて、私が雨のスコットランドで初めてgt4に乗った時の驚きや
イタリアでgt4や308GTBをドライブした時の感激を思い出しました。
キャブレターの素晴らしさは乗ってみなければわかりません。
そして所有すればこのエンツオの遺産ともいえるクルマは40年の時をこえて、
乗るたびに胸おどるような時間を与えてくれるのです。
by cavallino-cars | 2020-05-09 11:06 | Comments(0)