キャブレターとインジェクションモデル、どちらを選ぶか

先日ブログを見た方からキャブとインジェクションの長所と短所を教えてくださいというコメントをいただきました。

キャブレターとインジェクションモデル、どちらを選ぶか_a0129711_09243737.jpg
インジェクションのよいところはキャブに比べエンジンの始動が簡単です。
キーを回せば免許を取得したばかりの人でもかけることができます。

モダンフェラーリにいたってはブレーキを踏んでSTARTボタンを押すだけで
ブオンと始動します。

キャブレターとインジェクションモデル、どちらを選ぶか_a0129711_19023426.jpg
一方キャブレターはアクセルを踏み込まずに軽くポンピングするように踏みながら、初爆するまでセルを回し続けます。

一度エンジンに火が入ったら2000回転にアクセルの開度をキープしなければなりません。

エンジンが温まっているときに再始動する前にアクセルを床まで踏み込んでしまえば、プラグはびしょびしょになり、いったんプラグを外して、掃除しなければエンジンはかからなっくなってしまいます。

キャブレターとインジェクションモデル、どちらを選ぶか_a0129711_18484905.jpg
インジェクションはオートチョークが働き、エンジンが温まるまで自動で高い回転数にキープされます。さらにクラッチもキャブに比べ格段に軽いです。

キャブレターとインジェクションモデル、どちらを選ぶか_a0129711_19011891.jpg
一度キャブレターの308を工場に入庫させ、QVを引き取って帰った時に同じ気持ちでクラッチを踏んだら床が抜けたかと思ったほど、軽かったことがありました。

発進時はキャブ車はアクセルを不用意に開けてしまうとガソリンが燃焼室に急激に入り、せき込むような症状がでるので注意が必要です。

インジェクションは噴射量を調整してくれているのでアクセルをゆっくりと開ける必要はありません。

キャブレターとインジェクションモデル、どちらを選ぶか_a0129711_19004359.jpg
ここまで読むとキャブの良さはまったくないようですが、ひとたび高速に乗ると
その印象は一変します。

加速感は発進時はQVがまさるが、中高速域ではキャブの車のレスポンスは圧倒的にいいのです。

さらにキャブの308には、独特の吸気音や乾いた排気音、それにフライホィールのキーンといういわゆるフェラーリサウンドがコックピットを満たします。

355の音も素晴らしいですが、全く異なるサウンドです。
355のF1のようなサウンドとは違う、まさに音楽と呼ぶにふさわしい音色です。

それに比べインジェクションはシャーというベアリングの音や太い排気音となる。

キャブレターとインジェクションモデル、どちらを選ぶか_a0129711_19090546.jpg
アクセルレスポンスの違いは顕著で、キャブレター車はアクセルのちょっとした開度にも即座に反応します。
そのレスポンスの良さは驚くことに355よりもシャープです。

355の発進時の少しもたつくような感じもありません。

乗り比べるとインジェクションの加速感はどうしても緩慢に思えてしまいます。
キャブのフラップとアクセルぺダルが直結していて、ほんの少しの右足の踏み加減でガソリンが燃焼室に一気に落ちてエンジンの回転が跳ね上がる感じこそが
キャブの308や208gt4の魅力です。

どちらにも共通しているのが足回りやフレーム、そしてハンドリングの素晴らしさです。

ミッドシップ独特な、そしてスポーツカーならではのお応答性の良さがあります。

308のステアリングは328のようなステアリングが上下に動いてしまうような
ガタガタした感覚はなく、路面状況を的確にドライバーにつたえてくれます。

シートの座面の高さは圧倒的に308の方が低く、シートの肉厚も薄い。

ドライビングポジションはキャブ車の方が179㎝の私にはあっています。

ルーフのヘッドクリアランスもキャブの308の方が328などにくらべ格段に
スペースがあります。

特に328は右足のすねがエアコンの吹き出し口にあたり、長時間のドライブでは気になります。

エクステリアとインテリアは好みの問題。

キャブレターとインジェクションモデル、どちらを選ぶか_a0129711_18453023.jpg

QVとキャブレターの308はクラシカルなイメージでメッキのサイドブレーキ、
シフトノブ、メーターのリング、メッキのフレームのヒーターレバーや
丸いトグルスイッチなどまるで美術品のような美しさがあります。

キャブレターとインジェクションモデル、どちらを選ぶか_a0129711_18425474.jpg
328では一気にモダンな雰囲気になり、灰皿のメッキなどもいっさいなくなり、すべてのパーツはプラスティック製に変更されました。
キャブレターとインジェクションモデル、どちらを選ぶか_a0129711_18460448.jpg
メーターパネルも同様にメッキのリングはプラスティック製に変更されます。

キャブレターとインジェクションモデル、どちらを選ぶか_a0129711_18422625.jpg
モダンなイメージではありますがメーターもセンターコンソールのスイッチ類も
308やQVから比べると明らかにコストが削られていることがはっきりわかります。

キャブレターとインジェクションモデル、どちらを選ぶか_a0129711_18430893.jpg
それはボディも同様で308ではフロントバンパーに内蔵されていたウインカーユニットは下のグリルの左右にアッセンブリー取り付けられるようになりました。

キャブレターとインジェクションモデル、どちらを選ぶか_a0129711_19063958.jpg
308のドアのインナーハンドルはキャブ車はアームレストの下に隠れており、

キャブレターとインジェクションモデル、どちらを選ぶか_a0129711_19061914.jpg
できるだけ室内をすっきりさせ、美しさを第一に設計されているのがわかります。

キャブレターとインジェクションモデル、どちらを選ぶか_a0129711_19070605.jpg
ドアオープナーもできるだけ黒いウインドウフレームと同化させて目立たないようにウインドウの縦のモールに合わせて作られています。

328のようにドア本体に取り付けると美しいラインがくずれてしまうことを
デザイナーが嫌ったからに他ならないのです。

フェラーリ社のコストダウンの至上命令のためにデザイナーは本来の美しさを
犠牲にしてもコストのかからない設計に変更されていくのが2台を比べると
よくわかります。


クラシックフェラーリの魅力の一つはこの美しさにこだわったボディと内装
の作りにあります。

キャブレターとインジェクションモデル、どちらを選ぶか_a0129711_18424328.jpg

時代とともにそのデザインは変わり、


キャブレターとインジェクションモデル、どちらを選ぶか_a0129711_18430893.jpg
キャブレターとインジェクションモデル、どちらを選ぶか_a0129711_19130161.jpg
よく見るとコストのかからないかたちに変更されていきました。

308と355を見比べるとパネルが細分化され左右フェンダー、ボンネット、バンパー、ヘッドライトとその下のバーとがはめ込まれて作られる、まるでパズルのようです。

オートメーション化され作られたモダンフェラーリもその流れは同じで308のような美しいラインやメッキのコントラストの美しさはありません。

ちなみにフェラーリが初めて溶接や塗装の機械を採用し、オートメーション化して作られたクルマは348です。
キャブレターとインジェクションモデル、どちらを選ぶか_a0129711_18462245.jpg
人それぞれですが、内装も同じでQVや308のインテリアと328以降のモダンなインテリアのどちらを美しく感じるかです。
キャブレターとインジェクションモデル、どちらを選ぶか_a0129711_10122134.jpg
安全性はエアバックのついた355以降のモデルの方が圧倒的に良いのは明白です。

しかしシートのステッチやセンターコンソールのスイッチ類などどれをとってもそこにはめ込んだだけのようなモダンフェラーリとは違った、職人の、そしてデザイナーの美しさへのこだわりをクラシックなキャブ車には感じます。

キャブレターとインジェクションモデル、どちらを選ぶか_a0129711_19120863.jpg

上の355と下の328のシートの縫製をみただけでもどちらがエレガントか、コストがかけられているかはだれの目にも明らかです。

ちなみにスイッチ類やエアコンのダクト、センターコンソールなどが経年劣化でベタベタし始めるのは348からで、それは今のモダンフェラーリでも悲しきかな改善されていません。


キャブレターとインジェクションモデル、どちらを選ぶか_a0129711_18420544.jpg

キャブレターとインジェクションモデル、どちらを選ぶか_a0129711_19115197.jpg

348 以降はエンジンフードはセンターの部分だけが開くようになり、左右のリヤピラーはボディに固定されるようになりました。

そのため何年かするとボディのねじれでリヤフェンダーとルーフからつながるピラーの接合部に亀裂が入ります。


キャブレターとインジェクションモデル、どちらを選ぶか_a0129711_10125720.jpg
308や328まではエンジンフードは左右のピラー毎、開閉していたので
そのようなことはありません。
コストダウンによるデザインの変更のしわよせはこんなところにもあらわれてきます。

リヤのライトやバックパネル、バンパーなどを308と見比べるとチープな感じは
否めません。

キャブレターとインジェクションモデル、どちらを選ぶか_a0129711_13361201.jpg

355と比べると308のパネルの美しい形状がよくわかります。
ライト回りの楕円にへこまされたデザインは秀逸です。

キャブレターとインジェクションモデル、どちらを選ぶか_a0129711_10223940.jpg

さらに横から見るとライト下のラインで内側に傾斜したパネルがバンパー下のパネルに続くラインと同じ角度でつながるのがわかります。この繊細な美しさをみてしまうと当時あれほど魅了された355でさえ張りぼてなチープな車にみえてしまうの
です。

GTBやgt4はフィオラバンテ氏やベルトーネがコストを気にせず、安全のための規制の締め付けもなく、自由に車を作れたよい時代の作品なのです。

フェラーリは美しくそして速いクルマでなければならないというエンツオの思想をもっとも受け継いだ車こそ当時の車だといいうことが見ればみるほど、乗れば乗るほどわかります。

キャブのドライビングの楽しさは私が百の賛辞をのべるより、一度調子のいい車におのりいただくのが1番です。

先日、208gt4に助手席にお乗りになられた方からいただいたメールをご紹介します。

キャブレターとインジェクションモデル、どちらを選ぶか_a0129711_18521632.jpg

まだ1週間も経過しておりませんが、今思い返してもまさに夢のような経験でした。

キャブレターとインジェクションモデル、どちらを選ぶか_a0129711_18523276.jpg

たしか10月頃のブログでも私のように試乗初体験の方のインプレッションの記事をあげておられましたが、まさに同感といいますか、208gt4はまさに本物のスポーツカーだと心底感じた次第です。

心酔という言いかたが正しいでしょうか。

キャブレターとインジェクションモデル、どちらを選ぶか_a0129711_19231213.jpg

無論、蓮実社長のドライビング技術によるところが大きいのではありますが、
本質的な意味でこの車の持つポテンシャルを垣間見ることが出来たのかなという
印象です。

現場でも会話にださせていただきましたが、速度域のちがい、サスの有無など根源的な違いは置いておくとして、カートと非常に近い感触を受けました。

キャブレターとインジェクションモデル、どちらを選ぶか_a0129711_18531394.jpg

ステアリングのダイレクト感とコーナリングでのアクセル操作で鼻先がククッと入り込む感触とエンジンのリニアな反応。

もちろん本物の感じは知る由もない身ですが、70年代のレーシングカーってこういった感じだったのかなあとつくづく思います。

キャブレターとインジェクションモデル、どちらを選ぶか_a0129711_18525108.jpg

今思い返してもあのコーナリングの感覚の緊張感とレーシング感は
スポーツカーそのものでした。

キャブレターとインジェクションモデル、どちらを選ぶか_a0129711_19225361.jpg

加えてあのキーンというフライホィールの音や街中で建物に映る鋭利な刃物のような体躯の様を見て、あれでニヤニヤしない男(否、クルマ好き)はいないのではないかと思います。

もっと形とブランドありきの、優雅な乗り味に近い高級よりのイメージでおりましたが、まるで全く異なるベクトルのクルマであることに圧倒され、正直大袈裟ですが涙が出そうでした。

まったくもって手が出しやすい価格でなくなってしまったのが悔やまれて仕方ないですが、本当に日常使いもしやに入れられるスポーツカーとして極致な選択肢かと考えます。


このメールをいただいて、私が雨のスコットランドで初めてgt4に乗った時の驚きや

キャブレターとインジェクションモデル、どちらを選ぶか_a0129711_19185573.jpg

イタリアでgt4や308GTBをドライブした時の感激を思い出しました。

キャブレターの素晴らしさは乗ってみなければわかりません。
そして所有すればこのエンツオの遺産ともいえるクルマは40年の時をこえて、
乗るたびに胸おどるような時間を与えてくれるのです。


  by cavallino-cars | 2020-05-09 11:06 | Comments(0)

<< 308GTB ポジションライト... 洗車のすすめ >>

SEM SKIN - DESIGN by SEM EXE