
初めて私が英国から308を輸入したのが2009年。

高騰するクラシックフェラーリのうち唯一安定していたのが308だった。

その価格とは裏腹に実際にステアリングを握るとすでに1億円のプライスのついていた275や3000万円ほどのデイトナよりもはるかにスポーツカーとして楽しく、コックピットにすわるだけで胸がおどった。

コーナー手前でダウンシフトをし、クリップ手前でアクセルを少し戻し、

ノーズをインに向けて、コーナーをクリアしたところでアクセルを全開にする気持ちよさは、何ものにも変えられない。

308をコントロールしている楽しさは一度でも味わってしまうと、そのキーを返したくなくなるほど。

細いステアリングから伝わる路面状況やミシュランのタイヤが路面を捉える感覚、アクセルを軽く緩めた時のスライド感など、その独特のエキゾーストサウンドとあいまって当時にタイムスリップしてしまう。

ステアリングを握り、アクセルを全開にすればマラネロに向かうニキラウダやクレイレガツォーニの気分だ。

12気筒にくらべ、何といってもその軽さゆえに、自由にコントロールできるのも308の大きな魅力だ。
しかしながらここ1年の価格の高騰は驚くばかりで、円が弱くなったという為替の影響に加え、現地でもフェラーリが金や絵画、宝石のように投機の対象になってきている。
13万ユーロだったDino246 は今やイタリアでも35万ユーロという驚くべき価格になっている。
もっとも新しいものでは英国で25000kmの308gt4が75000ポンド、日本円にして1275万円、

308GTBのファイバーグラスは12万ポンド、2040万円。スチールボディの308GTBでさえ69000ポンド、1172万円のプライスをつける。状況はドイツでも同じ。
今の458やF12とは比べられない美しさがあるのはまぎれもない事実だが、ここまで高騰してしまうと過去にバブルと言う苦い経験をした私たちは気軽に買うことが出来ない。

イタリアに買い付けに行く状況も以前とは大きく異なり、よいコンディションの車はあっという間に売れてしまう。いかに早くアポイントをとりつけるかが、大切になってきた。

幸い1週間後に行くといえば、その前に見に来た人がいても待っていていただける場合がほとんど。
わざわざ日本から行って売れてしまったので残念でしたといわれることはほとんどありません。

本当にきれいなオリジナルコンディションのものであれば、世界に1台だけの自分の車としてガレージに入れる価値はあるのかもしれない。

だからこそ私はオリジナルにこだわるのです。
いずれは私たちは土にかえる。その日まで美しいものと暮らしたいという欲求は誰しもあるはずだ。

1台の車と生涯をすごすと考えるならいい出会いがあれば手が届かなくなる前に決断することも大切かもしれない。

4000万円の246Dino や5000万円のDaytona、1億のTOYOTA2000GTなどよりは、308 は今でもはるかに現実的な価格であることは間違いない。