20日ミラノを朝の8時に出発し、Bresia には9時に到着。

目的の黒のFiat Dino coupe はすでに外にだされていた。

内外ともレストアされ、室内はすべて張替え済みと聞いていたがそのフィニッシュは満足のいくものではなく、


ドアの内張りはご覧のような状態。

フロアマットは現在製作中とのことで納車時には新しいものがつくという。



エンジンルームもどことなく埃っぽい。

トランジスタはノンオリジナル。

メカニックに運転してもらい、試乗するもタコメーターが何度もエンジン回転数とは関係なくはね上がる。

磨けばよくなるかも知れないがダクトの塗装も塗りが厚く、重いイメージ。リアのサスペンションからはコトコトと音がでており、4本ともショックを交換しなければならないだろう。


メーターナセルのウッドパネルもあとからクリアを筆で塗ったようなあとがある。
運転することもなく、もう一台のDino coupe を見に向かう。

モデナから30分ほどの郊外のガレージの中にあったブルーのDino は最初に見た車とはまったく異なるオーラを放って出迎えてくれた。

美しいブルーメタリックのボディは磨きこまれ、大切にされてきた事がわかる。

内装はすべてオリジナルなのもうれしい。

1971年製のこのFiat Dino はシートやカーペットのコンディションもBresia のものとは比べものにならないほど素晴らしい。

メーターパネルのウッドも格段に違い、オリジナルの美しさを保っている。

エンジンルームも一目見て、メンテナンスがされているのがわかる。トランジスタもマレリのオリジナルがつく。


ホィールはCromdora。

両サイドにはBertone のエンブレムがつき、そのダクトもこの美しさ。

ドアを開けたときのアルミ製のサイドステップにもBertone の文字が刻まれる。

Ferrari と同じ場所にあるレバーでリアのトランクを開けると美しい赤のカーペットが敷かれたラゲージスペースがあらわれる。

深さはないがリヤシートを倒せば大容量の収納スペースを確保している。

カーペットの下にはおそらく一度も使用されたことのないスペアタイヤとジャッキの納まる工具袋が納まる。
カバーの左右のストッパーのネジも揃っている。
クラシックの部類に入るこの手の車ではこういう細かい部品が手に入りずらいので、貴重なのです。
キーを渡され、運転席に座り、10秒ほどのクランキングの後V6エンジンは目覚めてくれた。
あの慣れ久しんだDinoサウンドがフロントから聞こえてくる。

大きめのステアリングホィールをきってガレージからゆっくりと車をだす。
低速でもストールすることない、スムーズなエンジンはよく整備されているようだ。
シフトパターンはフェラーリ伝統の左手前が1速のパターンを踏襲する。区切られたゲージこそないが、短いストロークでカチッ、カチッと入る感じじは新車のロータスに近い。
水温が上がったのを確認し、徐々にペースをあげていく。
4000回転をこえる頃からあの官能的なDino サウンドを奏でだす。
3速、4速とシフトアップし、コーナー手前で2速まで減速すると吸い込まれるようにギヤが入っていく。
タイトベントに2速5000回転ほどで進入し、コーナーでアクセルを少し緩めただけでスーとノーズがインに入る挙動はスポーツカーそのものだ。

エアコンこそ備えていないがパワーウインドウは標準装備だ。

一見ソファーのようなシートは薄い座面と左右の膨らみでドライバーの体を十分にサポートする。

スパイダーに比べると地味な印象があるが、見れば見るほど、乗れば乗るほど、エレガントに思えてくる。しかもエンジンは言うに及ばず、ハンドリングも見かけとは異なりスポーツカーと呼ぶにふさわしい。
シートはレザーより、個人的には断然、モケット製のこのタイプがいい。

リヤクオーターにはアルピーヌのようなスリット付のダクトがつく。
フェラーリと比べるのは邪道かもしれないが、今や4000万円のDino246に対し、同じエンジンを積むこのクーペが5分の1の価格で楽しめるのはかなりのバーゲンプライスだろう。
Dino Club Italia のウォルター氏が2.4Lのクーペほど楽しい車は少ないと言っていたことが乗ってみて初めてわかった。

この固体の今のオーナーはイタリア人の歌手とのこと。このエレガントなボディとDino のサウンドは音楽家をも何十年も魅了し続けてきたのだろう。
今回の出張中、ずっと私の頭からこのクーペのことが離れない。2ケ月後に東京で再開する日が今から楽しみでならない。