
これという車に出会えず、ベニスに繋がる橋を渡り、Lido ferry というサインに従い、待ち合わせ場所に向かう。ここはベニスの入り口で、大型の客船やバスが乗り付ける。
ここから小さな船に乗り換えて、あの有名なベニスに向かう玄関口だ。
待ち合わせた場所は埠頭の端の地下駐車場の前。
オーナーに案内されて地下のパーキングに入る。

水面より低いパーキングは水の都ベニスからは想像できないモダンな空間だった。
一つ一つ区切られたシャッター付きのガレージの扉を開けると目的のGTSはあった。
1980年モデルの走行47628kmのFerrari 308GTS。
エンジンをかけ、外にだしてもらう。
薄暗いガレージでもよいものだけがもつ独特なオーラを放つ。
今回初めてわくわくしながらオーナーとガレージから外にでてまずは試乗をすることに。

エンジンは暖気が十分でないので3000回転ほどで抑えても充分にトルクフルだ。

トップを外した状態でもエアコンが効いているのを確認できる。ヴェニスの外気温は25度ほどだったが、空気が冷たく、オープントップで海の上の橋を走るのは実に心地いい。
水温計の針が真上をさすころあいをみて、本格的にエンジンを回す。シフトアップ、ダウンを繰り返し、ミッションの状態を確認するが、どのギヤにもスパッと気持ちよく吸い込まれるように入っていく。

2速で回るタイトコーナーでもアクセルのオンオフでスッとノーズがインに入り込むスポーツカーならではの挙動はモダンカーと変わらない。足回りやブレーキ等の確認を終え、そのままパーキングに戻る。

シングルパイプのオリジナルのマフラーを装着するこのGTSはすべてがオリジナルで、エクボや傷などのない文句のつけようがないコンディションなのだ。

この美しいシングルパイプのマフラーをみただけでもこの車の状態がわかる。
たいがいの車はダッシュボードやシートが張りかえられたりしている。
30年以上も経過しているのだから仕方ないが、驚くことにこのGTSはすべて工場からデリバリされたままの状態なのだ。
すべてがオリジナルの車は非常に貴重で、そんな固体に出会うことはめったにない。
デタッチャブルトップを収納するカバーもつくばかりか、その状態は新車時とかわらないきれいさ。

このGTSは珍しく16インチのホィールを備え、フロントは205/55/16 リヤは225/50/16のタイヤが装着される。オリジナルは14インチのはずだと思っていたが、1980年の最終モデルのこのGTSには特別に最初からこのホイールがついていた。

フロントウインドウにはそれを証明するメーカー指定のタイヤサイズと空気圧を示すステッカーが貼られている。

フロントには当時のメーカーオプションのビッグスポイラーがつく。

エンジンルームは圧巻のきれいさで、ウォーターホースなどの状態やその美しく光ったバンドをみてもよく整備されていることが伺える。

話を聞くと、昨年パドバのフェラーリ正規ディーラーにてタイミングベルト、オルタネーターベルトの交換もしたばかりとのこと。しっかりとディーラーで整備しているのは安心だ。
そのドキュメントも揃っている。

エンジンフードにつく黒のアルミ塗装が施されたルーバーもこのように美しい。
とても33年も前に作られた車と思えないほどだ。

ドアミラーもオリジナル。ミラーにつくこのCalifornia のステッカーとミラー本体に彫り込まれたVitaloni の文字がオリジナルの証だ。

リプロダクションのものにはこの彫り込みがない。

細かいところだが、ほとんどのGTS,GTB の時計の調整ノブは曲がったり、折れたりしているものが多い。しかしこの固体のそれは写真のようなコンディションだ。
もちろんマニュアルケース、マニュアルも揃う。新車時の保証書だけがないのは残念だが、何よりも重要なのは車そのもののコンディション。

ドア内張りも最初に見たGTBturbo とは比べられないほどのきれいさだ。
その意味でこれ以上のGTSはない。
フェラーリとイタリアの歴史を感じられる珠玉の1台。

ベニスでレストランを経営するオーナーはこの車を購入した時は他のものに比べ、高かったが、オリジナルのものをどうしても欲しかったのでこのGTSに決めたという。
何度もフェラーリのスペシャリストの知り合いに相談してみつけた1台だそうだ。
出会いは突然やって来る。今までの憂鬱な気分はいっきにふきとんでしまった。
また1台、イタリア人にこよなく愛された素晴らしいコンディションのFerrari が日本にやってくる。